わたしの道徳
〜 謝罪への招待 〜

2016/03/26  謝罪 治


 はじめに書いておくが、私は偏屈なまでの謝罪嫌いである。私の物の言い方はけしからん、私のレスは低能だ、私のコメントには意味がない、ネット資源の無駄遣いである等々、世の中全く謝罪謝罪で、もううんざりである。

 そのあと犬を見る。犬が電柱に小便するのを見る。これは謝罪すべきではないのか?
 否、それは違う、彼奴は犬である。犬に謝罪を求めて一体どうしようというのか。私は自分に問いかける。謝罪.....謝罪とは一体何なんだ。謝る?詫びる?陳謝?すまない?申し訳ない?.....もうやめてくれ!

 私は天を仰ぐ。空がやけに蒼い。嗚呼、何故人は人に謝らなければならないのか。謝ればそれでいいのか。...そうだ!私も一度謝ってみれば良いのだ!
 私としたことが、今まで何故こんな事に気付かなかったのだろう。しかし、謝罪するためには謝罪するだけの何かが必要だ。先ず人から『謝れ!』『謝罪せよ!』と言われなくてはならない。はてさて、一体どのようにして謝罪を求められれば良いものか。

 ふと、目の前を女性が行き過ぎる。一人、二人...。言うまでもなく私は成人男性である。考えてみよう。仮に私が彼女等に卑劣な行為を行ったり、卑猥な言葉を投げかければ、きっと彼女等は私に謝罪を求めるに違いない。いわゆるセクハラである。これだ! わたしはおもむろに振り返ると、彼女等を追って歩き出した。

 だがしかし、具体的にどのような行為、言葉を用いればよいのか。これも問題だ。低俗?いや、単に低俗なだけではいかん。わざわざ謝罪を求めるに当って『お姉ちゃん何歳?独身?3サイズ教えてくれる?』等といったそこいらへんの若僧が如き言葉を用いるのは、私のプライドが許さぬ。
 私は『敢えて謝罪を求められたい』のである!!この世の誰に頼まれた訳でもなく。

 気がつくと、前の彼女等がちらほらとこちらを窺っている。何か言葉を交わしている様だ。不味い。怪しまれているのだろうか。そういえば知らぬ間に私は腕組みをし、じっと前を睨みながら歩いているではないか。
 そして.....『っつ!』...女性の一方と目が合った瞬間、彼女等は何やら叫ぶと駆け出していった。振り返りもせずに。『しまった...』思わず私は舌打ちをした。嗚呼、謝罪を求められる絶好の機会だったというのに...。

 私は自分の愚かしきを嘆いた。自分に腹が立った。するとその時、私の胸を妙なものが過った。『!』...何だ、この感覚は...? 私はどうかしているのだろうか。考え込むあまり、頭に血が昇っているのか。...ここはひとまず冷静になろう。

 順序立てて考えてみる。
 先ず、私は謝罪について考えていた。そして、謝罪をしてみようという気になった。その為には、謝罪する場面が必要だという事が解った。そこへ、女性が通りかかった。女性になら謝罪を求められる必然性が生まれる事に気付いた。だが女性に逃げられた。自分に腹が立った。...わかった!これは自責の念なのだ!この場合、悪いのは自分なのだ!

 次の瞬間、私は体(たい)を傾(かし)げ、誰に向かって言うでもなく、こうつぶやいていた。

 『.....ごめんなさい。』


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