わたしの道徳 「壊れたボート」
〜 精神と肉体と差別 〜

2007/12/29 Hiroshi Ikarashi


 あなたは、友達5〜6人と、海へ行きました。

 みんなで泳いだり、スイカ割りをして楽しんでいました。
 すると、レンタルのモーターボートがあるのに気づきました。

 簡単な操作で、特に免許も要らないようなので、みんなで順番に乗ることにしました。

 一人ずつ沖まで出て、楽しそうに手を振っています。
 あなたも手を振り返します。

「がはははは」
「あいつ、海の上で『そんなの関係ねぇ!』とかやってるよ」
「しょうがねぇな、『はい、オッパッピー!』」
「『はい、オッパッピー!』」
「だははははははは」

 あなたの番になりました。
 初めてでしたが、楽しかったので、どんどん沖まで出ました。

「お〜〜〜〜〜い」
 あなたは手を振りました。

「……ぃ」
 友達が、手を振り返しています。

 海の上を自由に走っていると、心地よい風を感じます。

 その時、ボートの動きがおかしくなりました。

「…あれ?」
 あ、あれ…?
 おい…、ちょっと待てよ」

 全く操作が利かなくなりました。

 ボートは、勝手に蛇行運転をしています。

 あなたは、助けを求めました。
「おーーーい!! 助けてくれーーーーー!!!!」

 浜では、仲間が見ています。

「あ、あいつ手、振ってる」
「おーーーーーーーーーい!」
「なんかやれ〜〜!」

 誰も気づいてくれません。

「おーーーーーーーーーい!!!!!
 誰か、助けてくれーーーーー!!!!」

 全力で手を振ります。

 浜では、仲間が笑っています。

「あいつ、また何かやってるよ」
「おもしれ〜〜〜」
「でもそんなの関係ねぇ!」
「でもそんなの関係ねぇ!」
「はい、オッパッピー!」

 あなたは、不安になってきました。
 どんどん沖へと流され、自力で浜までは戻れそうにありません。

 ボートは、グルグル回ったり、蛇行したりしています。

 必死で手を振ります。
 飛び上がって助けを求めます。

「助けてーー! マジでーー!!
 おーーーーーーーーーい!!!!!
 誰か、助けてくれーーーマジでーーーー!!!!」

 浜では、仲間が笑っています。

「まーだあいつ、バカやってるよ」
「でもそんなの関係ねぇ!」
「はい、オッパッピーーー!」
「いい加減、帰ってこーーーい!」

 あなたは、必死で手を振り、飛び跳ね、
 あらん限りの力を振り絞って叫びます。

「頼むーーー! マジでーー!!
 たすけてーーーくれーーーーよーーーー!

「あーあー」
「どうする?」
「しょーがねぇな」
「ま、いいや。飽きたら戻ってくるだろ」
「だな。ビールでも飲むか」
「俺も」
「俺にも」

 あなたは、まだ海の上を彷徨い続けています。
 壊れたボートに乗って。

 あなたは、意識です。
 ボートは、肉体です。
 故障は、何らかの症状です。

 仲間達は、笑って見ています。

 ボートに気づいた他の海水浴客も、笑って見ています。
 子供が、指を差して笑っています。
 大人も、笑っています。
 みんな、笑っています。

※参考文献:講談社ブルーバックス


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