「小田実のおしゃべりクッキング」
バーチャル小田実さん@料理番組


 「どうして私がこの番組をやる羽目になったのか」− というと私の無責任のように聞こえるかも知れないが、ほんとうにわからない。私は今日、料理を一品つくらねばならない。

 今日のメニューは、ビーフストロガノフだと聞いたが、そういうものは時間がかかる。

 面倒でもある。

 なので、チャーハンにする。

 窮乏・困窮をあじわった世代にとって街のあちこちにある定食屋というのはありがたい存在でブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ……チャーハンは安く我々の胃ぶくろを満たしてブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ……まずしさの中に見えるそのチャーハンのブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ……当時の味を私はわすれることができない。

 炊きあがったご飯と塩と醤油と玉子、サラダ油があればいい。
 香りづけにはネギも必要だろうが、細かく切るのが面倒なので、今日はつかわない。

 現在、国内では米あまりがつづいている。戦後、経済の復興・発展とともに第一次産業たる農業のブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ……我が国が稲作農家のブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ……減反問題にたいしてブツブツブツブツブツブツブツブツ……時の農林水産省ブツブツブツブツブツブツブツ政務次官……ブツブツブツブツブツブツ……「さしたる問題ではない」との発言をうけて……ブツブツブツブツブツ……米価審議会なるものがブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ………とにかく、フライパンを熱する。サラダ油を適当にいれる。

 ころあいを見て、ご飯を放り込む。米はなんでもいい。ササニシキでもあきたこまちでもいい。

 たとえそれがタイ米であったとしても魚沼産コシヒカリであったとしても、「米」−パンでもパスタでもない米がブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ……昨今のBSE問題や鳥インフルエンザなどブツブツブツブツブツブツ……漁業・林業関係者にとってもブツブツブツブツブツブツ……飼料米・支援米としてのブツブツブツブツブツ……米あまりの日本がブツブツブツブツブツブツ……切実なるブツブツブツブツブツブツブツブツブツ……

 味つけは醤油だ。塩も適当だ。味は、つけばそれでいい。

 玉子を割り入れる。適当にさいばしでかき混ぜる。

 私がスーパーで玉子を見るにつけ思うのは鶏卵農家のブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ……物価の上昇にともないブツブツブツブツブツブツ……海外からの飼料の輸入量が近年とみにブツブツブツブツ……いまやコンビニでも24時間買うことのできる玉子をブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ……飼育形態がブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ……大量に安くブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ……

 火をとめ、うつわに盛りつける。見てくれはどうでもいい。食べるのは、私だ。

 つくづくチャーハンはうまいと思う。今回、食材としてつかった米や、醤油の原料である大豆の輸入元がブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ……だからではない。自分の手でこしらえたものを自分で食べる。「人間の手によって作られた "こころの食べ物" 」が一番うまいのだ。

 かつて、男子厨房に入らずといわれた − しかしいま、私のこしらえたチャーハンを目のまえにしてそのような戯言を言うことはすなわちブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ……このチャーハンが冷める。なので、私は食す。

 以上。
 多忙につき、次週は考えておく。

※小田実さんのご冥福をお祈り申し上げます。
勿論、この文章はフィクションです。


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