妄想ライナーノーツ・ヒット曲の真実
− 小坂明子「あなた」−


 普通に聞いてしまうと、愛する彼への思いを綴ったラブソングだが、実は全然違う。主人公の女性、なんと一級建築士の免許を持っている。

 背景を説明する。東京は丸の内にある、とある外資系企業に勤めるA男さん(32)とB子さん(28)が5年ほど前、社内恋愛の末、目出度くゴールインした。最初は東武東上線沿線のアパートで暮らしていたが、

 「いやぁ、そろそろ息子が小学校へあがる時の事を考えないといけない時期でしょうし、環境が大事とでも言いますか…、世の中不景気ながらも、どうにかこの先三人してやって行けそうな目途が立ったもので、ここは一つ、なんと言いますか…こう、『自分らしい家』というか、いえ、勿論家族全員の家ではあるんですが、個性的っていうか…別に、流行を追うとかってわけじゃないんですけど…」

 などと、あーでもないこーでもないと、夢の新居の設計依頼を受け、一人妄想を膨らませているのである。

 現実に家を建てるのは何処になるか。あれこれ検討した結果、子供にとっては幼稚園から小学校から中学校から高校に至るまで選り取り見取り。母親にとっては激安スーパーやフィットネスクラブやカルチャースクール。父親にとっては通勤の乗り換えが楽でゴルフ練習場も近いという、家族で好条件が揃った埼玉県の某所となった。

 この主人公、既にやる気満々。「家族三人、そこそこの家があればいいんです」と言われたのに、「ゆとりあるリビングは採光が命。窓は大きく!」「玄関は実用本位、小さめ小さめ!」と、勝手に設計図を頭の中で描いてゆくのである。おまけに「個性的な家」と言われただけなのに「個人的趣味」を加え、維持が大変なのを知ってか知らずか、“リビングには暖炉を”と目論む。この事に、まだ夫婦は気づいていないし、知る由もない。

 妄想は続く。真っ赤なバラにパンジーは良いとして、犬も必要不可欠らしい。家族三人、個性的な家。明るいリビング、暖炉あり。花と華のある暮らし。そう、それが勝手に犬へと結びつくのである。

 ところで、「あなたは今どこに」という、この“あなた”が誰なのかを考えてみる。主人公の望みは、「子犬の横」に「あなた」が居るという事だ。この「あなた」とは大工の棟梁、親方なのだ。

 依頼主は夫婦、設計は主人公、施工は○×工務店。工務店とはいえ、そこは昔気質の職人である。「おうよ、がってん承知の助!」がいつもの口癖。親方、偶然にも犬を飼っていた。秋田犬。この犬の横に、いつも親方がいる事を思い出した。
 主人公は、結局犬さえいれば何処でも誰でもよかったりする。なんせ「それが私の夢」なのだ。これにより、家族は犬を飼わなくて済む事となる。

 親方は、毎日仕事を終えると仲間と飲みに行く。何時に帰るか怪しいが、翌朝は必ず5時に飛び起きて、軽トラで現場へ直行する。携帯電話などという文明の利器は苦手で持っていない。なので、なかなか捕まらない。それが「いとしいあなたは 今どこに」となるのである。

 さらにさらに妄想は加速する。主人公にとってはリビングが一番大事らしい。ブルーの絨毯は必須。Dr.コパか何かの影響かも知れない。
 庭では、坊やが遊んでいる。土地・建物面積、建坪率・容積率等々を考慮に入れながら、またしても「素敵な庭」を思い描くのであった。

 ようやく家の骨組みが出来はじめる。棟上げが終われば、大工の華とも呼べる餅まきが待っている。昔は本当に餅をまいていたが、今じゃドンキで大量に駄菓子を買ってきてばらまく。近所の子供は大喜びだ。

 その親方、もうすぐ自分の家が出来る喜びで大はしゃぎな坊やと一緒になって、庭で遊んでいる。主人公は、この光景まで頭に描きながら「小さな家」を設計していたのだった。

 主人公は、編み物が趣味である。レースと言えば競輪か競馬か競艇しか思い浮かばない親方も、時折はここを二尺伸ばすだの、ここを五寸詰めるだのと相談があるので主人公宅へお邪魔し、一通り打ち合わせが終わると飲む。勿論、親方だけ。なので、主人公の編み物に付き合わされる。
 すっかり出来上がった親方、糸担当。毛糸編みの時にはワッパ状態。それが「私の横にはあなた」。親方がいないと、編み物がはかどらないのだ。

 そんなこんなで家は出来上がった。確かに個性的ではあった。「この色が、家族の健康と幸福を…」との、説得力があるんだかないんだかの言葉に押し切られてブルーの絨毯に載せられた。これまた「暖炉」という甘い響きにも載せられ、二つ返事でOKしてしまったものの、モノホンの暖炉だったので、いざ火を入れようにも大変な苦労。近所からはボヤかと騒がれ、くべるための木もDIYショップから調達するのが面倒で、二週間でやめてしまう。

 で、家族三人、楽しく笑って暮らしたには暮らしたが、ニッコリというよりも、ほんの少しだけ「苦笑い」であった事だけ、付け加えておきたい。主人公は相変わらず仕事に夢中で、結婚などこれっぽっちも考えていない。時々妄想に浸りすぎて、とんでもない家を設計するのが玉に瑕だが、そのうち幸せな結婚をし、自分で家を建てるであろう。

 なんせ努力家なので、親方に弟子入りして、施工管理士の免許まで取得してしまう。そして、本当に「私が家を建てる」のだ。法隆寺を建てたのは大工さん、という話があるが、この主人公にとっては笑い話でもなんでもない。

 有名なヒット曲にも、このような深い深い意味が込められている…はずは、ない。絶対にないってばさ。(igarin)

※ 此の文章は自作自演です。何卒。ゝ<;


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