なんちゃって教則ビデオ
「田端義夫のライトハンド講座」

〜 屋根の上のエレキギター弾き 〜


 オース! 若い衆! 元気にエレキギター弾いとるかぁ? 今日もまた、一緒に練習するぞ。もう手元にはギター用意しとるな? なら良し。じゃあ、まずは基本からだ。

 エレキの基本というのはな、その持ち方にある。たかがエレキと舐めちゃあいかん。最近の若い奴らは、闇雲にエレキギターのストラップを長いこと長いこと伸ばしよってなぁ。ありゃ、ダメだ。先ずは正確な運指、正確なピッキングだ。今すぐストラップをぎっちぎちに短くしろ。そうだ、胸元まで引き上げろ。出来たか? なら良し。

 なんでも巷ではこれを「バタやん弾き」とか言うらしいが、いつの間にそんな名前がついたものか。これがエレキの基本だ。そしたらな、とりあえず何かメロディを弾いてみろ。何でもいい。笑点のテーマのギターソロでもいい。ありゃ最高だ。日本人の魂、歌心が込もった愛の旋律だ。日曜の夕方には毎週見て、一緒に弾け。ぶっつけ本番、その度胸で男はエレキが上手くなるんだ。わかったか? わかったな? なら良し。

 今日はな、俺が新しく見つけてきたエレキギターの技術と演奏法をみんなに伝えよう。最近思うのはなぁ、やたらめったら人に“教える”とか“○○講座”とか抜かす輩がおるが、そりゃあ違う。

 人に物事を教えるからには、自分がそれを完全に咀嚼して嚥下して解釈して会得して体得して、やっと人様に披露する事が出来る。それを人様が見て聞いて、相手方が「私にも教えて下さい」と申されたならば、その時初めて「では、手前味噌では御座いますが、ワタクシメのこの芸当、どうかお聞き下され、受け取って下さいませ」と、謙虚なる姿勢で相手方に芸事なり技術を「お伝えする」のだ。

 そうでないものは只の“ひけらかし野郎”だぞ、この野郎。エレキの心は母心。弾けば命の泉湧く。楽器というのはな、心を込め魂を込めて演奏して、ようやっとその気持ちが伝わるものだ。な? わかったか? なら良し。

 オース! ちゃんと聞いてるか? これしきの説法でへこたれているようじゃぁ、イッチョ前のギター弾きにはなれんぞ。今日、紹介するギターの技巧は、ライトハンドというものだ。一昨日、孫がレンタルビデオ屋から、とあるロックバンドの演奏公演の奴を借りてきてな。俺も一緒に見ておった。なんでも米国は西海岸の四人組で、番とかなんとかそんなような名前だったが、なにぶんこのトシなもんで失念してもうた。

 兎に角、そこでエレキギターを弾いておった兄ちゃんが格好良くてなあ。紅白に塗られたギターを首からぶら下げて、満面の笑みで欽ちゃんジャンプをしておった。そいつがな、まこと珍しい事をしよってな。両の手でギターの指板を叩いて、世にも不思議な音を出しておった。

 俺はそいつが全くわからんかったので、孫に頼んでビデオをコマ送りしてもろうた。するとだ、その野村義男によく似た兄ちゃんは、左手のハンマリングと同じ事を右手も利用して表現しておったのだ。そいつに気づいた時、何というかな、俺の家が絨毯爆撃にでも遭ったような衝撃だったぞ。わかるか? カルチャークラブとかオイルショックとか、そんなような物だ。

 いやあ、初めて見る物というのは本当に恐ろしい。世界で最初にナマコ喰った奴がいたら、俺も会って話を聞いてみたいと思う。何事も先に見つけ、先にやった者がいる。そういう先達には、きちんと感謝せねばならんぞ。ギターを弾くなら先ずは謙虚たれ。それでこそ真のギター弾きだ。わかったか? なら良し。

 なかなか話が先に進まんが、我慢して聞け。練習には忍耐も必要だ。クラシックの世界を見てみろ。毎日四時間、五時間の練習を十年やって、初めて人前で独演会が出来る。そういう世界からすれば、エレキはまだまだ修行が足りん奴ばっかりだ。しずかちゃんも、なかなか上手くならんようだが頑張っておるのだ。マスオさんはいかん。たまの日曜、思い出したようにバイオリンを弾くが故、磯野家とその周辺が大騒動になるのだ。

 元DEAD ENDのYOUだの、B'zの松本だの、みんなみんな毎日八時間十時間練習しておった。ちなみに学校では爆睡しとったらしいが、ちゃんと卒業したんだぞ。諸問題はあるかと思うが、とにかく見習え。

 ようやく本題だ。我ながら長いとは思う。オース! 気合いを入れ直せ。もひとつ、オース!

 先ずは胸元にあるギターを、きっちりと構えろ。そうしたら左手の人差し指で、一弦の五フレットを押さえろ。ラの音だ。次が、ちょいと難題だ。左手の小指で、一弦の八フレットを押さえろ。最初はなかなか手が開かんと思うが、慣れだ。相撲の世界だってな、毎日また割りして四股踏んで、身体を慣らして柔らかくするから怪我をせんのだ。ギターも同じだ。風呂に入ったら指も手首も入念に解して、柔らかくしておけ。

 左手でラとドを押さえたならば、今度は右手の人差し指で一弦十二フレットを軽く叩いてミの音を出してみろ。この感覚をきっちり手に染み込ませるのが肝心要だ。じゃあ、君らがその練習をしとる間に、俺はちと便所に行ってくる。

 オース! 手は馴染んだか? ちょいとでも左手の手首が痛かったら、無理はいかんぞ。千里の道も大江から、万里の道は海江田だ。意味はないが気にすんな。オース!

 こいつをだな、順繰りに押さえると、その野村義男によく似た兄ちゃんのやっておった事が出来る。説明がどうも難しいが、右手の人差し指で、ひょいと十二フレットを叩く。音が出たら、人差し指を軽く弦に引っかけ、そいつをはじく。左手のプリングを右手でやるという事だ。
 人差し指が逃げるのは、自分から見て手前となる内側、あるいは足下の方向へ行く外側の二種類あるようだ。人によって違うらしいが、江戸屋の兄ちゃんは確か外だったと思う。タッカンも外だったと思うが、失念してもうた。

 そうしたら、左手の小指をちょいとはじく。そうすると最後に残るのは、左手人差し指のラだ。ミ、ド、ラ、ミ、ド、ラ、となる。こいつをとことん速く演ってみろ。たらら、たらら、たらら、たらら。とな。こいつが、今流行のライトハンド奏法というもんだ。
 な? わかったな? こいつをマスターすれば、今日から君もエレキの若大将だ。勝ち抜きギター合戦にでも出たら、相手はびっくりたまげて裸足で逃げ出すかも知れん。

 しかしなぁ、ライトハンドとか言うが、要するに「右手」だよな。「右手奏法」って、訳したら変な言葉だがなぁ。まあいい、今日のところはこれぐらいだ。後は、各々徹底練習してくれ。俺は今から屋根の上でCMの撮影があるもんで、失礼する。
 次もな、全国のエレキ小僧がおったまげのぶったまげな物を紹介するから、楽しみに待っといてくれ。一応予告しておくが、ジッポのライターと、いつ壊れてもいいオンボロギターを用意しておくといいぞ。あとは、歯を磨いておけ。前歯が重要だ。

 俺は、このライトハンドを磨きに磨いて今度の公演で披露させて頂く。もちろん「かえり船」でソロを弾く。そん時ゃあ俺の右手が炸裂するから必ず観に来いよ。

♪なあみぃ〜のぉ〜〜せえの〜せぇに〜〜
 で、ライトハンドだ。じゃあ、達者でな! オース!

※この文章はフィクションです。オース!
追記:2013/4/25 田端義夫さん逝去。ご冥福をお祈りします。


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