世にもビミョーな物語 5頁 No. 041〜050

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  1. ルールに負けた男 2001/04/14
  2. 電車の運転手になりたくなくなる話 2001/04/23
  3. 骨折り損のボロもうけ 2001/05/09
  4. 一撃必殺、その名は……? 2001/05/22
  5. 骨折わらしべ 2001/06/10
  6. ボツ  
  7. イカゲソ食べ放題 2001/07/30
  8. ぐるぐるの輪 2001/08/11
  9. 冗談みたいな男 2001/09/04
  10. うらみ・ます 2001/09/17

ルールに負けた男


 今回は珍しく、野球の話を書く。
 1991年のとある日。プロ野球、広島vs横浜の試合が行われていた。途中まで、ホームの横浜がリードしていたのだが、9回表・広島が得点を加えて同点になる。そして、その裏の最終回、横浜の攻撃。一死満塁という場面になった。この、一死満塁という状況をしっかり把握して、以下の文章を読み進めて頂きたい。

 横浜の打者が内野フライを打ち上げた。キャッチャー達川は、それをわざと捕球せずにワンバウンドさせてから掴んだ。そして、まず本塁を踏み、一塁へ送球した。つまりボールを落とす事で塁上の選手に進塁の義務を課し、本塁でフォースアウトで二死、そして一塁へ送球して併殺、スリーアウトと考えたのだ。

 その直後、横浜の三塁走者が、ゆっくりと本塁上を通り過ぎた。
 すると主審は「セーフ!」と宣告。
 ちょっとわからない話だが、これは達川の大ポカである。

 野球規則の中に“インフィールドフライ”というものがあるのだが、簡単に言うと“守備側が、フライをわざと捕球せず、走者に進塁の義務を課し、ずるいダブルプレー、あるいはトリプルプレーをしようとすることを防ぐ”ものだ。

詳しく言うと、
 1. 無死または一死で、
 2. 走者が一塁・二塁または満塁(フォースアウトになる走者が二人以上いる)、
 3. 内野手が通常の守備をすれば容易に捕球できる打球があがる、

 この3点が揃った状況で、審判はインフィールドフライを宣告する。インフィールドフライが宣告された瞬間、打者はその場でアウトとなるので、塁上の走者は進塁の義務がなくなる。ここがポイント。

 キャッチャー達川は、内野フライをわざと落とす事で本塁でのフォースアウトを狙ったのだが、打者は内野に打球を上げた時点でアウト。よって、落ちた打球を掴んで本塁を踏んでも三塁走者に進塁の義務はないのでフォースアウトにはならないのだ。ややこしいが、おわかりいただけただろうか。つまり、三塁走者をアウトにするためには、達川は三塁走者にタッチしなくてはならなかったのだ。

 達川は、バッテリーとしては勝負に勝ったのだが、ルールに負けてしまった。実は横浜の三塁走者も、勘違いをしていたという意味では一緒だったらしい。三塁走者が本塁を踏んだのは、横浜ベンチが一塁側にあったので、偶然にもその上を通り過ぎたのだとか。

 どんなスポーツでも、基本的なルールあってこその面白さというものがある。ワシはこの事件を知ってから、野球を観るのがより楽しくなった。達川さん、ありがとう! でも、本人は思い出したくないだろうがな。


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電車の運転手になりたくなくなる話


 電車の運転手というものは、我々一般市民が考えるほど楽しいものではないらしい。ちょっと前にも書いた、某鉄道会社職員の方から聞いた話の続きである。

 鉄道会社に就職して運転手を目指そうという人は、おそらく鉄道が好きなはずだ。少年時代に電車の写真を撮ったり、鉄道雑誌や模型を買うなどしていた人も多いと思う。そういう鉄道ファンならば、一度は自分で電車を運転してみたいと願うだろう。ところが、大人になって運良く鉄道会社に就職できて、これまた運良く運転手となっても楽しいのは最初の3ヶ月間なのだとか。

 そりゃあ運転手の配属になって研修期間を過ごしている間ぐらいは、毎日が興奮に満ちている。しかし研修が終わり、正式に運転手となれば、あとは朝から晩まで同じ事の繰り返し。数年もすると、勤務中にウトウトしてしまう人もいるらしい。
 ワシが話を聞いた運転手さんの場合、某地下鉄におつとめだったのだが、ある駅から電車が発車して視界が闇になると(地下鉄なのだから景色も何もない)もうウトウト。で、次の駅が近づいてきてホームの光が見えると、我に返ってブレーキの操作をしていたのだそうだ。そんな事を客が知ったら大変だが。

 もっと怖い話をすると、電車の運転手はその立場上、飛び込み自殺の轢(ひ)く側となってしまうので、そういう事故が起きるとかなり精神的に辛いものがある。運転手の中には、運悪く生涯に2度も3度も轢いてしまう人がいるらしく、相当に落ち込むのだそうだ。

 そして。ここから先を読んだら、きっとあなたは運転手になりたいと思わなくなるだろう。

 深夜、終電のあと。回送電車の運転という業務が一日の終わりに待っている。回送電車には、お客さんは誰一人乗っていない。それは当然だが、実は車掌も乗っていない。乗っても役割がないからだ。さらには客車の電気も全て消えている。長い長い真っ暗な列車に、一人っきり。銀河鉄道999といい勝負だ。

 自動車だって、明かりも対向車も全くないような、人里離れた細い山道を真夜中に一人で運転するのは怖いと思う(※免許持ってないけど)。それが列車になったら。そして飛び込み自殺に遭遇してしまった日の夜中だったとしたら。運転手の中には、乗っているはずのない(乗っていてはいけない)お客さんの存在を感じる事もあるそうな。怖い怖い。

 やっぱり自宅のゲーム機で、電車でGO !とかやっているから楽しいのだ。CMでも、「4cmオーバーかよ…」とか面白おかしく見せているが、楽しいだけが運転手じゃない。ゲームでも「窓ガラスに人の顔が映ってしまう」とか「背後に人の気配を感じる」とか、そういうのはどうだろう。…売れないような気はしますがね。はいはい。また次回。


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骨折り損のボロもうけ


 昔からよく耳にする噂で、「死体をホルマリンに浸けるアルバイトがあって、すごくお金がいい。でも、身体にホルマリンの臭いが染みつくし、夜中に一人での作業はめちゃめちゃ怖い」というものがある。
 本当かどうかはわからないが、全く根拠のない話ではないと思う。この噂がその後どうなったか、都市伝説系の本によれば「今では死体は冷凍保存されるので、このアルバイトはなくなった」という。

 別口の話では「最初っからデマ。死体を洗うのに、わざわざホルマリンの入ったプールになど入れないし、それをブラシで沈めたりしながら洗う必然性もない。“夜中に一人で死体を洗う”とか“髪の毛がぞわ〜〜と浮いてきたりする”のは脚色」らしい。

 数年前の事だろうか、ワシはもっと怖い噂を聞いた。「骨折するアルバイト」だ。
 どういう媒体でこの噂を知ったのかは忘れてしまったのだが、内容としては「とある研究施設では、人間の骨が折れて自然に治癒していく過程を研究している。アルバイトを志願する人は、腕や足を人為的に骨折させられてしまう。その代わり、アルバイト料は1回30万円」というもの。ちょっと信じられない話でウソっぽいが、今の世の中、100%あり得ないとも言い切れないような気がする。

 ……そんな事を考えながら、とある日。ワシは電車に揺られていた。すると、近くにいた若いスーツ姿の男性二人が、偶然にも骨折の話を始めた。

A )「人から聞いたんだけど、骨って1回折れて、そこが回復すると1mmぐらい伸びるらしいよ」
B )「1mmか。ってことは、足を50回骨折したら、5センチ身長が伸びるんだな」

 不覚にも、ワシは笑ってしまった。たしかに言っている事はごもっともなのだが。まあ、そんな事をやるバカはいないだろう、と思った。だがしかし、先にも述べたように、本当に骨折のアルバイト」があるならば、やってみるバカも、ひょっとしたらいるかも知れない。

 50回とは言わないまでも、1回ぐらいは、ものはためし。1回30万を、高いとみるか、安いとみるか。30万円は昔聞いた話だし、これが今50〜60万円とかになっっているならワシも考えて……みないってば。いやだってば。好奇心旺盛なへの1号君でも、たぶん「イヤですぅ、ぼくはかんべんですぅ〜」とかなんとか言うだろう。

 この件について、さらなる噂やくわしい話をご存じの方、是非ともたれ込んで頂きたい。経験者ならなお良し! ……いたら怖いんですけどね。


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一撃必殺、その名は……?


 意外に思われる向きもあろうが、ワシは根っからのプロレス好きである。そもそも父方の祖母が大のプロレスファン(馬場よりは猪木、流血戦大好きな明治生まれ)であったため、ワシはその影響で好んでテレビを見るようになった。さらには小学生の頃に流行っていた漫画「キン肉マン」の影響で、学校でもプロレスの関心度は高かった。

 ところで今回は、プロレスの“技”について書こうと思う。いくつか挙げると「バックドロップ」や「足四の字固め」などは古くからある技なので、皆さんも言葉だけなら一度は耳にしたことがあると思うし、どんな技なのか、その名前から想像出来る人もいるだろう。「バックドロップ」なら、バック=後ろ、に、ドロップ=落とす、のように。

 それが最近では、レスリングスタイルの多様化や、レスラーの技術そのものの向上などで、どんどん新しい技が生まれている。単純に名前を聞いただけでは、一体どんな技なのかがわからない物も多い。せめて「○○キック」(=蹴る)「○○アタック」(=ぶつかる)のように、具体的な攻撃のかけらでもくっついていればいいのだが、何の関係もない名称がつけられるのが当たり前になってきている。

 ワシが笑ってしまった例。
 老舗であった全日本プロレスを離脱し、新団体「NOAH」を旗揚げした三沢光晴(みさわ・みつはる)というプロレスラーがいる。人気、実力ともに最高クラスで、日本マット界を代表する一人だ(通称:三沢社長)。そんな三沢の必殺技は「エメラルド・フロウジョン」……なんか、サーティワンの新しいジェラートみたいなのは、気のせいだろうか。
 技としては、相手を逆さまに持ち上げて頭から落とすのだが、それのどこが「エメラルド」「フロウジョン」なのだろうか。でも、あまり追及すると三沢社長のファンが怒るので、気にしない気にしない。

 もう一つ。
 最近ではリングの上よりバラエティ番組などで活躍している、大仁田厚(おおにた・あつし)というプロレスラーがいる(追記:ご存じかと思いますが、国会議員になってしまいました)。自らを“邪道”と名乗り、やることなすこと八方破れ。“無理を通せば道理引っ込む”を地でいく男だ。そんな大仁田の必殺技は「サンダーファイヤー・パワーボム」

 技としては、向かい合った相手の頭を下げて胴に両手をまわし頭上に担ぎ上げ、後頭部からマットに叩きつけるのだが、何でこのような名前なのか。実は大仁田がまだ全日本プロレスで活躍していた頃、売り出し文句が“炎の稲妻”だったのだ。それで「サンダーファイヤー」という呼び名が付けられたらしい。
 それはともかく大仁田は、この技を繰り出す際に「サンダーファイヤー!」と叫んでから相手に見舞うのだ。技の名前を先に言ってしまったら、かわされそうなものだが。でも、あまり追及すると大仁田がパイプ椅子片手にやって来るので、気にしない気にしない。

 FMW以後の大仁田しか知らない人には信じられないかも知れないが、ちょっとだけ懐かしい話を書く。全日時代、大仁田はジュニアのホープで、初期FMWでも着用していた上が白で下が青のコスチュームを着て、トップロープを掴みジャンピング・インしていた。苦手であったと思う飛び技もこなし、尊敬する馬場さんのもと、必死で闘っていた。
 その光景を思い出すと、邪道を名乗る不器用で不作法な男が、何故に引退と復帰を繰り返してまでプロレスに固執するのか、ワシは何となく理解できる。

 そういえば、プロレスの世界ではあまりに技が増えてしまったので、某出版社から、技の大辞典のようなものまで出たらしい。ワシは、そういうのを買ってまで!というファンではないが、インターネットでも面白い技を紹介しているページも多い。興味のある方は、一度調べてみてはいかがだろうか。


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骨折わらしべ


 いやあ、世の中、なんでも書いてみるもんだ。先日書いた「骨折するアルバイト」に関する情報が、いが研に寄せられたのだ。たれ込んでくださったSさん(仮名)によると、今の相場、腕一本70万円なんだそうな。

 今回いただいたメールは大変に興味深いので、その内容のいくつかを紹介したい。
 Sさんは、ある友達から骨折のバイトを誘われたのだそうだが、この友達という人が、新薬の効果を試すバイトをやっているのだとか。このたぐいのバイトも多々あるらしく、例えば一日入院して新薬の実験台となるバイトが7万円。一週間の入院を3回繰り返して80万円というのもあるそうだ。

 で、肝心の「骨折バイト」だが、これについてはワシもSさんのメールを読んでいて顔をしかめてしまった。「麻酔を使って感覚を無くしたところで、万力のような器具を使って腕を折る」。うぅ…、いくらエグい話が好きなワシでも、これは脂汗だ。実際、麻酔が効いているので痛くはないらしいが、これをやる勇気は相当なものが必要だろう。
 それでだ。Sさんの友人、骨折のバイトで車を買っちゃったんだとか。そりゃあ腕一本70万円なら、車も買えようが。ワシなら、やはりMacとシネマディスプレイを…。いかんいかん。なんか、人として行ってはならん方向へ足が向いているぞ。

 実は、このコラムをここまで書いて、ちょっと眠らせておいたのだが、さらにたれ込みがあった。こちらは、Tさん(仮名)からのメール。
 「現代の美容整形は、かなりのことができるらしいのですが、なんと、身長も5センチくらいなら伸ばせるらしいんです。しかも足だけ」

 それって、美容整形の範疇なのか? 「足だけ」っていうのも気になるし。だいたい“足を5センチ伸ばす”って、人の足は膝上と膝下があるではないか。どちらか一方だけを5センチ伸ばしたら妙な事になりそうだが。膝下5センチならまだしも、膝上だけを5センチ伸ばしたら、相当変な体型だぞ。やはり、膝上・膝下を“それぞれ2.5センチずつ”伸ばすのだろうか。これもちょっと気になるので、ご存じの方、メール下さい。

 それにしても。腕を一回骨折するだけで(しかも痛くない)、70万円もらえるというのは興味深い話だ。「俺もやってみよう」と思われたあなた。ちなみに書いておくが、この手のバイトは、誰それの紹介である事を報告しないと出来なかったりするそうだ。
 もしも、ある日突然、いが研に高価な機材や、アプリその他がやってきたら、ワシの右腕はギプスで固められているかも知れん。なーんてな。


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イカゲソ食べ放題


 ワシは、根っからのイカ好きである。どれくらい好きかというと、寿司屋に行ったらウニでもイクラでもトロでもなくとりあえずイカを食べ、途中いろいろと寄り道をしても最後にはイカで締めるほどである。イカに始まりイカで終わる。ちなみにワシは、この世からマグロが消えても困らない人間だ。ウニもイクラも要らない。

 グルメ番組を観ていると、大トロがしょっちゅう出てくる。安くて美味しくてしかも激安…とかいいながら結局それなりのお値段になる。すぐさまワシの頭の中では比較検討が行われる。簡単に言うと「この大トロ1貫の金額で、イカが何個食べられるか」なのだ。…真剣だぞ。
 さらに言うと、ワシはイカの中でもゲソが大好きだ。縁日などで焼きイカの屋台が出ていると、イカの丸焼きではなくゲソのみを食べ続ける。これは子供の頃から全く変わっていない。

 ところで、読者の皆さま。世界一大きなイカとは、どれくらいの大きさがあるのかご存じだろうか。な〜んと18メートル。ダイオウイカという種類のイカで、最大のものはこれほどまでに成長するのだそうだ。
 ふっふっふ。ワシの考えはもうおわかりであろう。どうせ食べるなら、大きなイカの方がゲソも食べがいがあるというもの。ワシはダイオウイカのゲソを食べてみたいのだ。

 でも、18メートルって、どれくらいの大きさなんだろうか。ワシの身長は178cm。だから、約10倍か。……10倍!? それって、ワシがダイオウイカを食う前に、ダイオウイカにワシが食われないか。やたらに怖いぞ。仮に、漁師の人が捕まえてくれて、それを板前さんがさばいてくれるとしても、なんか凄すぎる。そもそも18メートルって言ったら、ビルの5階ぐらいに相当するではないか。

 じゃあ、適当に計算。ワシが食べたいのはゲソのみなので、大きさを考えてみる。小さなイカを元に算出するとして、18cmのイカを例に挙げる。ゲソの長さはだいたい8cm、太さは8mmとしよう。18メートルということは、これの100倍なので、ダイオウイカのゲソは8メートル、太さは80cm(あくまで推定)。……凄いっていうかなんていうか、これを想像した時点で、ワシはお腹一杯だ。

 そういえば昔、ロサンゼルスにてステーキを食べた事があったが、なんというか、草履のようなアメリカァ〜んな大きさで、やたらと大味だったのを覚えている。どんな食べ物でも、ほどほどなのが一番おいしいのかも知れん。
 ん〜、でも一度でいいから、ダイオウイカのゲソ、食べてみたいのだが……。どこかの漁協でやりませんかねえ「100人でダイオウイカ(の、ゲソ)を食べるツアー」。ワシは参加を予定しておるぞ。マイ醤油とマイわさび持参でな。でも、なんで今からゲップが出るんでしょうか。不思議です。


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ぐるぐるの輪


 こう毎日暑いと、アホな雑念ばかりが頭の中でぐるぐると巡る。

 例えば、山手線。どうせ同じ輪を一周しているのなら、何百両かで山手線を一つの長い電車にしてしまえばいい。要するに観覧車と同じにするのだ。長い長い電車が、人の歩く速度よりもやや速い程度で、ゆっくりと走っている。人々は、目的地までのんびり座っていくもよし、急ぐ人は電車の中を早歩きするもよし。どうせいつかは目的地に着くのだ。そう焦らなくてもよかろう。
 この方式の良い点は、電車の待ち時間がゼロという事だ。常にホームには電車がある。素晴らしいアイデアではないか。

 ……しかし、欠点もなくはない。駅と駅の間をどうするか。ドアが開きっぱなしでは大変危険だ。それに本当に急ぐ人は、早歩きしたとしても品川から大塚まで辿り着くのにはえらい時間がかかってしまう。

 もう一つの、ぐるぐる話。
 近年、都会ではヒートアイランド現象なるものが進行しており、気温の異常な上昇による環境問題が論じられている。エアコンの室外機から出るものすごい量の熱が、都市部の気温の上昇に拍車をかけている。さて、これをどうするか。

 実は、これもワシの「ぐるぐる論法」で解決できる。例えば、マンションの101号室の室外機から出た熱を、102号室のエアコンで冷やす。今度は102号室の室外機の熱を、103号室のエアコンが冷やす。以下同様に、このマンション内部をつないでいって、最後の部屋の室外機の熱は、隣のマンションなりビルなりのエアコンで冷やす。そして街中のエアコンが一つになった時、問題は解決する。うーむ、これってナイスかも。

 ……しかし、これにも欠点というか盲点があるのに気づいた。それぞれのエアコンは、一つ手前のエアコンの室外機を冷やすのに精一杯で、肝心な建物の中身を冷やせない。
 さらには、下手に運転を止めてしまうと、その部屋だけ猛烈な暑さに見舞われるだろう。そもそも、こんな事をしてまで街を冷やすのなら、涼しい地方へ機能を移転した方が安くあがるような気もする。

 実は、ワシには密かな夢がある。それは“特許を取得すること”なのだが。いつか、この「ぐるぐる論法」を応用して、すんばらしいアイデアを考案し、大金持ちになるのだ。中島みゆきも歌っていたではないか、「まわる まわるよ 時代はまわる」
 今にみておれ、ぐるぐるの時代がやって来るかも知れないぞ。その日まで、ワシの煩悩は回り続ける。ぐーるぐるとな。


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冗談みたいな男


 十数年前のこと。ギターの世界に一大旋風を巻き起こした人物がいた。その名は、スタンリー・ジョーダン。この男、何がすごかったかというと、ギター2本を同時に弾くのだ。それも、大道芸みたいなレベルではなく、そこいらのギタリストが2人がかりでもかなわないぐらいのバカテクで、それはそれはセンセーショナルなものだった。

 「ギター2本を同時」って、どうやって弾くのか疑問に思った方もあろう。説明すると、ギターの演奏法のひとつに“タッピング”というものがある。普通ギターを弾く時は、左手で弦を押さえて右手で弦をはじくという2つの動作で音を出す。

 それが、タッピングの場合、左手あるいは右手の指で弦を上からフレットに叩きつけ、それだけで音を出す。つまり、片手のみで音を出せるのだ。ギターの心得がある人なら、ちょっと慣れれば右手のタッピングだけも簡単なメロディぐらいは奏でられるようになる。

 しかし、これを両手で同時に、かつ芸術的に演じようとすると、並大抵の苦労では済まされない。実はワシも一時タッピングにハマっていたので、ギター2本を用意して試した事があったが、これで自由な演奏を…なんていうのはどだい無理な話だった。

 スタンリーの演奏は、本当に凄まじい。一度、テレビでライブ演奏を見た事があるのだが、なんだこいつは!? と、驚いて、笑ってしまった。ジャズのスタンダード「枯葉」を演奏していたのだが、ギターでこれほどまでの事が、しかも一人で出来るのかと感動した。

 驚いた事に、右手でのアドリブも自由自在であり、特に、右手だけでのチョーキングにはまいった。これは、ギターを演奏される方なら、どれほど難しい技術かおわかりだろう。

 ところがどっこい。そんなスタンリーにも、弱点があるそうだ。
 彼は今、ピックでギターを弾く練習しているらしい。ほんと、名前の通り“冗談みたいな男”である。


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うらみ・ます


 どういうわけか、ワシの夢にはよく、黒くて触角があってコソコソはい回る奴が出てくる。昔も今も変わらず、月に1度ぐらいは登場する常連さんである。夢であれば、人に殺されるとか高い所から落ちるとか、そういう方が怖いと思うが、ワシにとっては黒い奴の方がよっぽど怖い。

 あれは8年ぐらい前のこと。当時ワシは、部屋の壁際ぴったりに横付けしたベッドで寝ていた。そしてある日の明け方、黒い奴の夢を見た。夢の中で、奴らが大挙して襲ってきた。来るな! と、いくら叫んでも無駄で、奴らはどんどん迫ってくる。そして恐怖がピークに達した時、ワシは奴を思わず蹴り上げていた。……そこで目が覚めた。ん? 夢か。あー、怖かった。
 次の瞬間、ワシは、夢の中よりもずっとずっと怖い光景を目の当たりにする。

 左足の親指が痛い。慌てて見てみると、爪が完全にめくれており、そこから血がだらだらと流れている。何故だ!? 一瞬わからなかったが、すぐ気づいた。ワシは夢の中で黒い物を蹴り上げた時、現実世界では思いっきり壁を蹴飛ばしていたのだった。ベッドが壁際にあったのもいけなかったが、季節が夏場であり、薄手の毛布一枚で寝ていたのも不運だった。これが冬で、重たい羊毛布団であったなら、蹴り上げても壁まで届かなかっただろうに。

 さあ、困ったぞ。困ったといっても怪我をした事に困ったのではない。爪がめくれて歩けなくても、何日か経てばなんとかなる。それより問題なのは“会社に何と言って休みを取るか”であった。
 「夢にゴキブリが出てきたので恐怖のあまり壁を蹴ったら足の爪がめくれました」だなんて、小学生でさえもマヌケすぎる言い訳だ。いい歳してちょっと恥ずかしいぞ。結局ワシは、どこかに足をぶつけて怪我をした、とかなんとか言ったように思う。その後、会社の親しい同僚に本当の事を話したところ大笑いされた。そりゃそうだ。

 あれからもう長いこと経ったが、ワシの左足親指の爪は、結局治ることはなかった。爪の根本がやられてしまったのか、縦に真っ二つに割れた状態で、今も伸び続けている。
 そして今日もワシは、積年の恨みを込めて、ゴキブリホイホイをしかけるのであった。う・ら・み・は・ら・さ・で・お・く・べ・き・か。


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